9月23日の朝、NASAジェット推進研究所の年配のエンジニアは、廊下で人だかりに出会いました。そのエンジニアの半分の年齢30歳ぐらいの若い男がその人だかりの中央に立っていました。
彼は、失われたマーズクライメート・オービターを線通信でナビゲートをしていた一人でした。 責任のなすり合い そのナビゲーターは、自分が探査機の破壊を引き起こしたという気持ちでふるまおうと努めていました。そのエンジニアとナビゲーターは1億2500万ドルの探査機の損失について議論を始めました。 エンジニアは、ナビゲーターが探査機の位置を決定する際に基本的なミスを犯したと責めました。ナビゲーターは言葉を荒げて反論しました。 「そんな風にきつく言うお前はいったい何様なんだ?」と、エンジニア大声で返しました。 目撃者によると、あるところでナビゲーターはエンジニアの首を掴んで彼を壁に押し付けました。 2、3日熱が冷めた後、若い方の男が謝罪にやって来ました。この出来事はそれ以上のことは起こりませんでしたが、緊張はなかなか消えません。 このところJPLは、卵の殻の上を歩いているようです。 ロスアンジェルスGlendaleの郊外の丘の上に建っているこの研究所は、 無人探査計画を世界で1番成功させた中枢部というよりはむしろ大学のキャンパスのように見えます。 最近この研究所は本当に神経質になっています。すり切られた神経。傷つけられた自尊心。そして探査機の損失は全く愚かな誤りの故でありました。 探査機は製造したロッキード・マーティン社は、その推力をイギリスの単位ポンドでプログラムしましたが、JPLのナビゲーターはNASAのポリシーでメートル法の単位ニュートンを使っていました。 もし彼らが機械的な故障を非難する可能性があったならば、高名なカリフォルニア工科大学で運営されるJPLの奇才はどんなにか楽だったでしょう。 そうではなく今回のことは、左手がやっている事を右手が知らなかったという古い事例でした。それで彼らは、お互いを非難することになってしまったのです。 このごたごたが、9ヶ月かかった461ミリオンマイルの旅の終点でこの探査機を火星に予定よりも近づけ過ぎてしまったのです。 マスコミはもっぱらハードウェアの損失やこのような事故がこんな愚かな誤りで引き起こされるのかという疑問だけに焦点を当ててレポートしています。 ミスの累積 表面上は、このような計算間違いはミッション・マネージャーに降りかかるべきだと思われているようです。 しかしこの誤った数字は、ジェットエンジンの操縦でも小さな力となって現れました。 「あなたが言っている力はとてつもなく小さいもので、彼らはほとんどそれを検知できなかったでしょう。」と、ある情報筋が私に教えてくれました。 この小さいミスは、何億マイルものコースにほんの60マイルを加えただけです。しかし火星に60マイル深く入ることは、探査機が生き残るにはあまりに大きな圧力がかかることになるのです。 この探査機が突っ込んだとき、それは自尊心も一緒に引きずり込みました。 「今日たくさんの若者が、それを自分達の誤りだと思ってオフィスに座り込んでいました。」と、ある年配の科学者が教えてくれました。 もちろん彼らはこのミスを見つけるべきでした。しかし、彼らは安く宇宙にアクセスする時代の品質管理に挑戦している訳ではありません。 それは何か他の組織上の失敗なのです。全くそれに付きます。 この大失敗を調査している調査委員会の結論は、およそのところ我々がすでに知っている事です。 このミスは見つけられるべきでした。 新しい指針が施行され、JPLは生き残って再び我々を圧倒するでしょう。 一方でたくさんの人々が修羅場をくぐり抜けています。 ナビゲーション・チームは濡れぎぬを着せらたのでしょうか? 研究室では、ナビゲーション・チームは事故の10日前に探査機が火星に近づき過ぎるコースに乗るように決定しており、コースを修正する時間は十分にあったという噂が広まっています。 研究室の知識人によると、ナビゲーターは通告に注意を払わなかった幹部をかばう為に責められているということです。 ナビゲーション・チームの部長パット・Espositoは、自分は報道陣にしゃべらないように命令を受けていると言ってコメントを避けています。 うわさによるとEspositoは、火星計画に責任のあるJPLの副ディレクターのトーマスGavinに、コースを修正する必要があるという通告を与えていました。 探査機は火星の楕円軌道に乗るべくコース上にありました。その軌道を円形に変更する一連の操縦が続いて行なわれるはずでした。 第2段階で追加操縦の必要があるかどうか、管理とナビゲーターの間に意見の相違がありました。 この追加操縦の問題については議論の余地があります。何故なら探査機は決して手の届かない遠くへ行ってしまったからです。 |